Dockerは、アプリケーションとその依存関係を1つのパッケージ(コンテナ)にまとめて、どの環境でも同じように動作させるためのコンテナ仮想化プラットフォームです。従来の仮想マシンよりも軽量で、起動が速く、リソースの効率的な利用が可能です。
1. Dockerの目的と利点
目的
- 環境の一貫性の確保:
- 開発環境、テスト環境、本番環境など、異なる環境間で同じ挙動を保証。
- 開発者が「自分の環境では動くけど…」という問題を解消。
- アプリケーションのパッケージ化:
- アプリケーションとその依存関係を1つのイメージとしてまとめ、どのシステムでも動作可能。
- リソースの効率的な利用:
- 仮想マシン(VM)よりも軽量で、起動が速く、リソースのオーバーヘッドが少ない。
利点
- 軽量:
- 仮想マシンとは異なり、ホストOSのカーネルを共有するため、メモリやディスクの使用量が少ない。
- 移植性:
- コンテナを使用することで、異なるOSやクラウド環境でも同じアプリケーションが動作。
- 高速な起動:
- コンテナの起動時間は秒単位。
- スケーラビリティ:
- コンテナを簡単に複製して負荷分散やスケールアウトが可能。
- インフラの抽象化:
- 開発者はインフラの詳細を気にせずアプリケーション開発に集中できる。
2. Dockerの基本概念と用語
(1) イメージ (Image)
- Dockerコンテナを作成するための「テンプレート」。
- アプリケーションやOS、依存関係をすべて含んだ「読み取り専用のパッケージ」。
- Dockerコンテナはこのイメージをもとに作られる。
例: UbuntuベースのイメージにNode.jsアプリを追加。
(2) コンテナ (Container)
- Docker Imageから作成された実行環境のインスタンス。
- アプリケーションを動作させる軽量な仮想環境。
- 必要に応じて起動・停止・削除が可能。
- 複数のコンテナを同じイメージから起動可能。
(3) Dockerfile
- Docker Imageを自動化して構築するための手順を定義。
例)
ベースイメージの指定(例:FROM ubuntu:20.04
)
必要なパッケージのインストール(例:RUN apt-get update && apt-get install -y nginx
)
アプリケーションのコピー(例:COPY app/ /app
)
コマンド実行の指定(例:CMD ["nginx", "-g", "daemon off;"]
) - 例: シンプルなDockerfile
FROM node:14
WORKDIR /app
COPY . .
RUN npm install
CMD ["node", "app.js"]
(4) ボリューム (Volume)
- コンテナのデータを永続化する仕組み。
- コンテナが停止・削除されてもデータが失われない。
(5) レジストリ (Registry)
- イメージを保存し、共有するリポジトリ。
- Docker Hub: Dockerの公式レジストリ。
- 例:
docker pull ubuntu
はDocker HubからUbuntuのイメージを取得。
3. Dockerの仕組み
(1) コンテナ仮想化と仮想マシンの違い
- 仮想マシン(VM)は、ハードウェアを仮想化し、各VMが独自のOSを持つ。
- Dockerコンテナは、ホストOSのカーネルを共有し、軽量な分離環境を提供。
項目 | Dockerコンテナ | 仮想マシン |
---|---|---|
起動速度 | 数秒 | 数分 |
リソース効率 | 高い(軽量) | 低い(重い) |
OSの要件 | ホストOSのカーネルを共有 | 独自のOSが必要 |
スケーラビリティ | 優れている | 劣る |
(2) 名前空間とcgroups
- 名前空間(Namespaces):
- 各コンテナに独立したファイルシステム、プロセス、ネットワークを提供。
- cgroups(Control Groups):
- CPUやメモリなど、リソースの使用を制限。
4. Dockerの基本コマンド
(1) イメージ管理
イメージを取得:
docker pull <イメージ名>
イメージの一覧表示:
docker images
(2) コンテナ操作
コンテナを作成して起動:
docker run -d -p 8080:80 <イメージ名>
-d
: バックグラウンドで実行。
-p
: ホストのポートとコンテナのポートをマッピング。
実行中のコンテナを表示:
docker ps
コンテナを停止:
docker stop <コンテナID>
(3) Dockerfileでイメージを構築
- カスタムイメージをビルド:
docker build -t <イメージ名> .
5. Docker Compose
概要: 複数のコンテナをまとめて管理するためのツール。
Webサーバー、アプリケーションサーバー、データベースなどの連携を簡素化。
使用例: docker-compose.yml
ファイルyamlコード
version: '3.9'
services:
app:
build: .
ports:
- "8080:8080"
db:
image: postgres
environment:
POSTGRES_USER: user
POSTGRES_PASSWORD: password
コマンドで起動: 関連するすべてのコンテナを起動
docker-compose up -d
6. Dockerの活用例
- 開発環境の構築
- 開発者全員が同じコンテナを使用することで、環境の一貫性を確保。
- テスト環境
- テスト用の一時的な環境を迅速に構築し、終了後に削除。
- CI/CD(継続的インテグレーション/デプロイ)
- JenkinsやGitLab CIと連携して、ビルド・テスト・デプロイを自動化。
- マイクロサービス
- 各マイクロサービスを独立したコンテナとしてデプロイ。
7. Dockerの課題と注意点
課題
- 学習コスト:
- 初めて使用する場合、概念や操作に慣れる必要がある。
- セキュリティ:
- ホストOSのカーネルを共有するため、脆弱なイメージやコンテナの管理が重要。
注意点
- 公式イメージを使用:
- 信頼性の高いDocker Hubの公式イメージを使用する。
- リソース制限を設定:
- コンテナにリソース制限(CPU、メモリ)を設定して、ホストに負荷をかけすぎない。
8. Dockerの代替ツール
- Podman:
- Dockerと互換性があり、デーモンを必要としない軽量ツール。
- Kubernetes:
- コンテナオーケストレーションツール。Dockerと組み合わせて使用されることが多い。
まとめ
ツール | 役割 |
---|---|
Docker | コンテナ技術の基盤。すべての操作の中心。 |
Docker Container | 実行可能な環境(Docker Imageから生成される)。 |
Docker Image | コンテナのテンプレート。アプリケーションとその依存関係を含む読み取り専用のパッケージ。 |
Dockerfile | Docker Imageを構築するための手順を記述するファイル。 |
Docker Hub | Docker Imageを保存・共有するためのクラウドサービス。 |
Docker Compose | 複数のコンテナ(サービス)を一括で設定・管理するためのツール(特にマルチコンテナアプリケーションに便利)。 |
Dockerは、アプリケーションのパッケージ化、移植性の確保、リソースの効率的利用に優れたコンテナ仮想化ツールです。軽量で高速な特性を持ち、開発から本番運用まで幅広い用途に活用できます。学習コストはありますが、現在のソフトウェア開発やデプロイの標準となりつつあります。
参考
Docker公式ドキュメント:
https://docs.docker.com/
Docker公式ドキュメント(マニュアル):
https://docs.docker.com/manuals
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